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有限会社三崎工業(沖縄県那覇市)

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有限会社三崎工業
(沖縄県那覇市)

渡嘉敷さん、知念さん 三崎工業は1982年(昭和57年)創業。水道工事事業を行っている。
三崎工業の従業員数は15名(2021年12月現在)。
今回は、代表取締役の知念秀明さんと、外部専門家として関わっている健康経営エキスパート・アドバイザーで看護師の渡嘉敷忠さんからお話を伺った。

中小企業ならではの働き方の工夫がされており、その中心には社員の健康を大切にする社長の想いがある

まず、健康で働きやすい職場づくりの取組みについて、知念さんを中心にお話を伺った。

「当社のスローガンは、『働くこと、学ぶこと、健康なことが、最高の財産』です。これは、先代社長の時代から掲げられているもので、創業当初から従業員の健康づくりには力を入れてきました。私は代表を引き継いで2年目になりますが、私もこのスローガンは好きですし、従業員たちも意識しています。」

「当社は、新築、メンテナンス、公共工事の3本立てで事業を行っています。それぞれの業務で高い専門性を求められますが、それを15名で対応しています。この人数でこれだけ幅広い事業を行っている会社は少ないと思います。」

「そのため、社員間のコミュニケーションがとても大切だと考えています。以前は、朝出社したら皆で集まって一日の流れを確認し、ラジオ体操をして、今日も一日頑張ろうと、それぞれの業務や現場に分かれていく日々でした。ただ、コロナ禍となり、そうした朝の活動や全体会議を開催することが難しくなりました。そこで、部門のLINEグループを作り、日々の仕事や連絡事項を記録しているノートを写真にとってLINEで共有することにしました。自宅から現場に直行した社員も、他の社員がどのような業務を行っているのかわかるようになりました。こうしたやりとりの窓口は、担当の事務員にお願いしています。仕事の変更や追加、緊急対応などがあった場合はその事務員に連絡が入り、メモした内容をLINEで共有するという流れです。メモした内容をきれいに整理し直すと、そのことだけでも負担が増えますので、『〇〇さん、△時から△時まで××(場所)に入る』のように最低限の内容があれば十分として、ガチガチのルールにはしないようにしています。」

「また、従業員皆、仕事に集中してもらいたいので、事務所に固定電話は置いていません。代表電話番号に架かってくるすべての電話は私の携帯電話に転送されるようになっています。仕事で集中している最中に電話に出たことで、それまで何をしていたのか忘れてしまう、ということを避けるために、私の方で引き取るようにしています。」

「社員の勤務時間に関しては、社員の事情に合わせて柔軟に対応しています。現場によっては定時より早く行かなければならないこともありますし、子どもを保育園に送ってから出社する場合、定時に間に合わないこともありますから、そのあたりは社員一人ひとりが柔軟に調整できるようにしています。また、有給休暇も、とる人ととらない人がいるので、月1回、全員に休みの希望日を記入して、とってもらうようにしています。病休で急に休むことになると、他の従業員の負担が大きくなります。そのため、日頃からリフレッシュできる休みの取り方について考えてもらうように力を入れて取り組んでいます。最近では、病気による休みもほとんどなくなってきました。」

「また、会社として無理な仕事の受注はしないようにしています。受けてしまってできなくて迷惑をかけてしまうのではなく、受けたものをしっかり対応し利益も出していく、選別受注を意識しています。そうしてからは、売上はある程度落としても、利益は確保できています。発注者もはじめから当社に割り振りをしてくれるようになりましたし、無理な業務は発注元に戻すこともでき、予定が立てやすくなりました。今後も、社員には無理なストレスをかけることなく、安心して働き続けられる仕事を考えていきたいと思っています。」

「その他、身体の健康づくりにも力をいれています。当社は健康器具メーカーからの業務も受注しているのですが、そのつながりで、当社事務所内にスポーツマシンを設置しています。昼休みや仕事から帰宅する前に、10分程でも気軽に身体を動かすことができる環境を整えています(【写真1】参照)。」


 【写真1】身体の健康づくりの様子

「2018年には“がんじゅうさびら表彰”という沖縄県が実施している表彰制度のグランプリをいただきました(【図1】参照)。この賞がきっかけで、当社で行っている取組みを社外にお伝えする機会が増えました。今後も、沖縄県内に健康への取組みを広めることができたらと考えています。」


【図1】がんじゅうさびら表彰と認定マーク

ストレスチェック実施義務がなくても、ストレスチェック開始前に経営者から趣旨を説明し、社員の納得を得た上で実施したことで、高ストレス者面談をはじめとした制度全体が効果的に機能している

次に、ストレスチェックを中心としたメンタルヘルス対策の取組みについて、知念さんと渡嘉敷さんにお話を伺った。

知念さん
「ストレスチェックは2020年から実施しはじめました。当社の従業員は50人未満ですので、実施義務はありません。しかしながら、“健康経営優良法人”の申請項目にもありますし、当社の職場環境には少なからず何かしらのストレスがあると思っていましたので、実施してみることにしました。」

渡嘉敷さん
「建設業の働き方は特殊です。一つの建物が完成するまでに、いろいろな会社が分業で関わっていきます。気心の知れた社員と一緒に仕事をするのではなく、今日はじめて会った人たちと仕事をしなければならない上、少しでもミスがあったら大事故につながりかねないという、非常にストレスのかかる職場環境だと思います。」

知念さん
「その中でも、私たち水道屋の動きは特殊です。他の業種は、自社の担当する工程が終わったらその現場から引き上げていきます。一方、水道屋は、建物を作る最初の段階での排水設備の整備から、建物内の水回りの整備、最終的には水がしっかり出るか水圧のチェックを行って、引き渡しをします。建物を作る工程の最初から最後まで関わるというところが、水道工事業独特です。このため、それぞれの社員が、常に複数の現場を抱えていますし、その現場は基本的に社内では一人で担当しますので、責任もあります。時には一人親方の職人の方に外注し、連携しながら業務にあたることもあります。ストレスは少なからずあると思います。」

渡嘉敷さん
「私と知念社長との出会いは2019年12月です。当時、三崎工業は2年連続で“健康経営優良法人”に認定されていましたので、どのような活動をされているのか聞きたいと思い取材に伺いました。さまざまな中小企業の中でも、知念社長の視野は非常に広くて、驚きました。取材後しばらくしてから、連絡をいただき、“健康経営優良法人ブライト500”の認定を目指したいので力を貸してほしい、中でもストレスチェックを実施したいと考えている、というお話がありました。私はストレスチェック実施者の資格をもっていますので、全面的にサポートすることにしました。」

知念さん
「ストレスチェックを始める前に、ストレスチェックを行う意味について、私から社員に話をしました。私が結果を見ることはないので正直に答えてほしい、一人でも受けない人がいては意味がないので皆協力してほしい、といったことを伝えました。社員皆が了承してくれて、実施することができました。」

渡嘉敷さん
「ストレスチェックの質問項目は、職業性ストレス簡易調査票の簡易版23項目を使用し、書面にて実施しました。8月に実施し、9月に結果を返しました。結果は、個人のプロフィールと、グラフや数値の見方の説明などを合わせて、全員に書面で配布しました。また、集団分析結果もまとめて皆さんに傾向を説明しました。」

渡嘉敷さん
「高ストレスだった方には、私との面談を案内しました。体調管理の手法や仕事や家庭での過ごし方などについてアドバイスできると伝えました。また、他の社員には気づかれない時間帯に実施できることを説明して、出社前の時間を30分ほど作ってもらい、会社とは別の場所で面談を行いました。こうした進め方は事前に社長と相談した上で決めました。」

知念社長
「そのため、私はいまだに誰が高ストレス者だったか知りません。人数の少ない会社ですから、高ストレス者が誰だったのか、探ろうと思えばいくらでもできるかもしれませんが、そこに触れたことは一切ありません。ストレスチェックを実施する意義を皆が理解することが大事だと思っています。私に知られると思って正直に回答してもらえなくなってしまっては意味がありません。」

渡嘉敷さん
「高ストレス者との面談では、本人の状況を把握して、こころの耳サイトの資料も活用しながらアドバイスしています。その上で、医師による面接指導を希望される方には、私の知り合いの医師を紹介できる体制を整えていますし、それ以外の相談窓口も必要に応じて紹介しています。」

知念社長
「ストレスチェック制度というものがあるというのはもちろん以前から知っていましたが、義務の対象ではなかったので、実施までたどりつくのに時間がかかりました。しかしながら、実際に行ってみると、会社のメンタルヘルス対策の仕組みづくりから考える良いきっかけになりました。結果として、この1年間で沖縄産業保健総合支援センターの支援の下、“心の健康づくり計画”の策定や“職場環境改善計画”の実施を行うことができました。50人未満の企業でも、ストレスチェックを実施することは有意義だと思います。」


【図2】「うちなー健康経営宣言」と「健康経営優良法人2021ブライト500」

【ポイント】

  • ①中小企業ならではの働き方の工夫がされており、その中心には社員の健康を大切にする社長の想いがある。
  • ②ストレスチェック実施義務がなくても、ストレスチェック開始前に経営者から趣旨を説明し、社員の納得を得た上で実施したことで、高ストレス者面談をはじめとした制度全体が効果的に機能している。

【取材協力】有限会社三崎工業
(2022年2月掲載)